きものを身近なものへ
きものは日本人の歴史・文化・感性・英知・資質・人間性などが凝縮されている世界に誇れる民族衣装です。
しかし現代ではきものに触れ合う機会がほとんどなくきものへの関心が薄れ、その素晴らしさが人々の心から忘れ去られているのではないかと感じます。
多くの人にとって、きものが身近なものではない現状において、日本人がきものの素晴らしさを再認識するためには、きものに近づくことが第一歩ではないでしょうか。
それには本物のきものを間近で見、手で触れ、直接着る、体のすべての感覚できものを捕えることのできる体験型の授業が有効であると考えられます。
和装教育の実情
実際にきもの教育に関し、文部科学省の平成29・30年に告示された学校教育における学習指導要領では「伝統や文化に関する教育の充実」として、
●幼稚園ではわが国や地域社会における様々な文化や伝統に親しむこと
●小中学校では和食や和服の指導の充実
●高等学校では和食、和服及び和室など、日本の伝統的な生活文化の継承・創造に関する内容の充実
などが示されていますが、教育現場では和服に関しては知識のみの教育に留まっているところが殆どであります。
着装体験授業後の嬉しい声
私どもの研究授業において、きもの着装体験授業後のアンケート調査では、きものをまた着てみたい(機会があったらまた着てみたいを含む)は約97%に及び、きもの教育を行う上で、きもの着装体験は教育効果が期待できることを示した内容でした。
またこれまでにも、同様な研究結果が他の研究者からも多数報告されています(註…文部科学省委託事業「特色ある共同研究拠点の整備の推進事業」「きもの」文化の伝承と発信のための授業実践研究最終報告書平成21-23年度)。
しかしこのように、きもの着装体験の実践による高い教育効果が報告されているにもかかわらず、教育現場での実践指導は15パーセントに満たない(註…令和4年12月都立高校への独自電話調査)実施率であります。
その大きな要因は、日本の学校教育における体制にあります。一般的に、教員一人当たりの指導数は35人程であり物理的に着装指導が困難です。
また、教材のきものや小物などの準備が学校でも家庭でも難しい現況であります。これらのことが大きく影響して、きもの着装体験の実践指導を躊躇してしまうというのが実状であると考えられます。
次世代を担う子どもたちに伝えたい
きものは 1000 年以上もの歴史の中で、日本人の生活に不可欠なものとして英知が注がれ てきました。
それは衣装として美しいだけでなく、きものに施された・染色や織物・縫製 の技術や緻密で勤勉な仕事は世界でも高く評価されています。
歴史を伝える美しい文様の 数々・きものをしわにせずにたたむ知恵・平面の帯を折り紙のようにたたみ立体的に形づ けるアイディア・きものを仕立てる時も布をできるだけ切らない工夫をする「もったいな い」の再利用の精神など、日本人が持つ技術力や物を大切にする心、美的センス、工夫を 凝らす知恵、などのすべてがきものに凝縮されており、これらは現代社会にも生かされ役 立っています。
だからこそ次世代を担う子どもたちにきものを伝えたいのです。
きものに 実際に触れ学ぶことがきもの理解につながり、ひいては日本人としての誇りにつながるので はないでしょうか。
将来世界に飛び立つ子どもたちの礎にしてもらいたいと私たちは考え ています。
着装体験授業の実現のために
この現状を踏まえ、この度の研究結果から学校教育におけるきもの着装体験教育を可能にするためには、
1、きもの着装体験教育の支援システムの構築
2、学校教材用きもののレンタル支援システムの構築
が急務であると考えます。
なお前記文部科学省の学習指導要領の改定のポイントでは、「必要な人的・物的体制の確保、実施状況に基づく改善などを通して、教育課程に基づく教育活動の質を向上させ、学習の効果の最大化を図るカリキュラム・マネジメントの確立」が明確に示されました。これにより、学校教育における人的、物的サポートが受けられる土壌が整いつつある状況にあります。
着装支援で社会貢献を
そこでこのたび、きものに長年関わってきた私たちは、学校教育できもの着装体験教育の実践を可能にするとともに、社会貢献の一環として「きもの着装体験教育を支援するプロジェクト」を立ち上げました。
この活動により教育現場できもの着装体験学習が実践され、多くの皆さんが日本の伝統文化であるきものをより身近に感じ、きもの文化の素晴らしさについても再認識するきっかけとなるなど、きもの教育が充実することを心から願うものであります。
非営利活動団体 日本きもの教育支援プロジェクト
代表 橘内たえ子